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あぜみちデザイン / インタビュー

インタビュー記事

地方の人口減少や過疎化が課題となる一方で、「地方移住」や「U・Iターン」などをキーワードに「地方」に注目が集まってきています。

ローカルが抱えている課題を出来るだけ前向きに、楽しみながら解決したい。そして地域に関わり一緒に盛り上げてくれる人が入り込むきっかけを作りたい。そんな思いで「ローカルプロデューサー」として一関市を中心に様々なチャレンジを続けているあぜみちデザインの櫻井陽さんにお話を伺いました。

あぜみちデザイン 事業概要

一関市大東町生まれの櫻井陽さん。東北大学卒業後に宮城県庁に勤め、その後一関の地域おこし協力隊となる。20代のためのまちづくり団体「TAKUMARU」を立ち上げ、地域の若者向けのイベントを企画・運営する。

2019年に「あぜみちデザイン」を独立開業し、現在は一関市の個人・会社・行政の企画や広報を行う。地元の人や一緒に一関を盛り上げたい人を支えるローカルプロデューサーとして、地元の「あんどん祭り」の運営や金山棚田の耕作など、様々な取り組みに挑戦している。

 

一関市大東町で生まれ育った櫻井さんは、仙台の大学を卒業後、「震災復興に携わりたい」と思い、宮城県庁に入庁しました。県として復興道路工事の許認可を出す課に配属になり、忙しい日々を送っていました。

「日中は打ち合わせを5本くらいこなして、その後ひたすら書類処理業務をする毎日でした。自分が仕事を進めないと復興道路の工事が進まないというプレッシャーもあり、一生懸命やっていました」

作業は深夜まで及ぶことも多く、激務の日々が続きました。事務的な作業の中で、自分の仕事が誰かの役に立っているという感覚も得られませんでした。また、行政の仕事上、柔軟に対応したいことがあってもルール上それが叶わないことにも、もどかしさを感じていました。

櫻井さんは「この仕事をあと40年続けることが、本当に自分にとっての正解なのだろうか」と考えるようになります。目の前の課題に対して柔軟に寄り添い、地域の人たちと一緒に解決に向けて取り組むことができたら……。

入庁して1年と少し経った頃、心身ともに限界のまま走り続けてきた櫻井さんは体調を崩し、それをきっかけに転職を決意します。

 

「県庁を辞める前に、たまたま一関市の地域おこし協力隊の採用募集を見つけて応募しました。安定した仕事を辞めるなんてと、家族にはかなり反対されましたけどね。でも、やってみなきゃ分からない!って半ば強引に一関に来ました」

櫻井さんが協力隊に応募したきっかけの一つに、地元企業の経営者の方々との出会いがありました。

大学4年の時に、地域の事業者の人たちと地域を盛り上げるための企画を考える講座『一関はっぷん塾』に参加しています。そこで地元の経営者の人たちに初めて出会い、「地元にこんなに面白い人たちがいたんだ!」と衝撃を受けたそうです。

「講座の中で地域の人たちと直接コミュニケーションをとったり、課題解決に向けて一緒に取り組んだりした経験が心に残っていました」

「最前線に立って地域を盛り上げようとしている経営者の人たちを見て、自分も一緒にやりたいと思ったし、大きな組織の中にいるよりも、こっちの方が自分らしく働けそうだなと感じていました」

 

そして2016年、櫻井さんは地元に戻って地域おこし協力隊になりました。以前よりも納得感を持って仕事をすることができるようになったと話します。

「自分がした仕事で目の前にいる人が楽しそうにしている。それが見えるのが嬉しいですね」

「地域の人たちが目の前にいて、企画したイベントに参加してくれたり、開発した商品を購入してくれたりするので、血の通ったコミュニケーションができているなと思います」

その後、20代のまちづくり団体「TAKUMARU」を立ち上げ、地域の若者が楽しめるようなイベントを企画・運営するように。

ものづくりのワークショップを開いたり、猊鼻渓で船上アカペラライブを開催したりと、幅広くいろいろなことに挑戦しました。イベントには毎回多くの人が参加し、次第に仲間が増えていきました。


 

その後、地域おこし協力隊としての3年の任期を終えた櫻井さんは、「ローカルプロデューサー」としてそのまま地元で開業することを決めました。「あぜみちデザイン」という屋号に、その肩書きの意味が込められています。

「地域課題を解決するソーシャルデザインをやっていきたいと思い、デザインという言葉を入れました。」

「子どもの頃、何もない学校の帰り道を、自分たちで面白いことを見つけたり作ったりして楽しく帰っていたのを思い出して。ローカルには深刻な課題もあるけど、楽しみながら解決していきたいという思いを込めて、『あぜみち』にしました」

櫻井さんがローカルプロデューサーとして初めに注力したのが、地元の「あんどん祭り」の企画です。

現在は東京でグラフィックデザイナーをしている同郷の先輩が、「祖父が長年取り組んでいたあんどん祭りをもっと盛り上げていきたい」と話していたことをきっかけに、このプロジェクトが動き始めました。

「先輩には東京からリモートで運営に携わっていただき、現地部隊として自分が動いていました。初年度は現地で開催することが出来ましたが、昨年と今年はコロナ禍になったのでオンラインで開催しました」

初年度は分からないことだらけの中で必死に準備を進めました。地元の仲間とともに様々な企画を作り、当日の運営もたくさんの人に協力してもらいました。

結果、初年度は大成功。地元以外の人も祭りに訪れ、たくさんの人で賑わいました。お祭りを盛り上げるためにあんどんに絵を書く子ども向けのワークショップも開催し、各メディアでも取り上げられました。


「地元の方が『こんなにたくさんの人と地元の盆踊りを踊れて嬉しい』と言ってくださったのが嬉しかったです。目の前の人が笑顔で楽しんでいる光景が今も心に残っています」

オンライン開催の翌年以降も、あんどん祭りの開催に合わせて地ビールを作って販売したり、地元の漆器職人さんとコラボして特製ビアグラスを作ったりと、地元の人たちと協力しながら、多くの人が楽しめるお祭りを作り上げています。

 

2020年に立ち上げた「金山棚田-playfarm-」も、櫻井さんの代表的な企画の一つ。

一関市舞川地区で100年以上の歴史を持つ金山棚田は、個性豊かな形の田んぼに黄金の稲が揺れ、「これぞ日本の原風景」と言える美しい棚田です。

土地所有者の金山孝喜さんが長年管理してきましたが、高齢のため2019年に耕作を断念しました。そこで、櫻井さんが声を上げたのです。

「協力隊時代に稲刈りや田植えをお手伝いしていて、そこで初めて金山さんが全て手作業でやっていたことを知って。まるで芸術のような職人技を見て、その技を残したいと思ったんです」

「最初は後継者を探したんですよ。でも、半年経っても見つからず...。地域の中では『もう無理だ、諦めよう』という話も出ていました。でも、一人では難しくても、みんなでやったらできるんじゃないかなって」

まず自分が1年やってみると言って、耕す作業から稲刈りまでの一連の田んぼ作業を体験イベント化して、参加者を募りました。

「誰もやらないならやるしかないなという使命感がありました。やってみないうちに諦めるのは好きじゃないんです。無理かもしれなくても、まずはやってみてから決めたいんです」

2年目からは、棚田1枚1枚のオーナー募集をはじめます。

結果的にその年、全ての田んぼにオーナーが付きました。

櫻井さんの強い意志と積極的な行動が多くの人を巻き込み、金山棚田は今も美しい景観を保っています。

他にも、一関にある油屋「株式会社デクノボンズ」さんとフレーバーオイルの商品を開発したり、一関市の地域おこし協力隊の採用PRの企画を担当したりと、地域の人たちと一緒に、楽しみながら少しずつ一関を盛り上げています。

 

櫻井さんは、無理だと言われることでも、まずは挑戦することを大切にしています。

「最初から出来ないと決めつけるのは無しにしたいんです。大きく見ると出来ないことでも、小さく見ていけば出来ることがある」

その思いの根底には、櫻井さんが中学生の頃の体験があります。

入りたかった硬式テニス部が地元の学校にはなく、先生に「人数を集めたらできるかもしれない」と言われて必死で人を集めましたが、部活が作られることはありませんでした。

「事情はもちろん分かりますが、今でも『できる方法があったんじゃないか』と思っています。新しいことをやろうとすると『前例がないからできない』とやらない方向にいってしまうことが、田舎ではよくある気がしていて。それがすごく嫌なんです」

「何かやりたいことがある人がいるなら応援したいし、自分ができることは手伝いたい。もちろん自分がやりたいこともやっていきたい。やる気さえあればローカルでもできると思っています」

 

現在も地元・一関を盛り上げるために様々なプロジェクトに取り組んでいる櫻井さん。

その中で、一緒に地域を盛り上げる仲間を増やしていきたいと言います。

「自分が地域の入り口になって、一関に関わりたいと思ってくれている人と地域の人たちとを繋ぎたいと思っています。自分も地元の帰ってきたばかりの時は試行錯誤していました。その経験を活かして、その役割を担えたらと思っています」

今回共同制作した当求人サイト「イワイズカン」も、仲間を増やすためのプラットフォームとしてしっかりと形にし、今後も有効活用できるようにしていきたいと話します。

「一関で起業したいという方から相談を受けることもあって、それがとても嬉しいですね。今後は小さな規模でも地域で起業を考えている人をサポートしていきたいです。一緒に一関を盛り上げていけたら良いなと思います」

そのサポートの一つとして、場を作ることを検討しているそうです。

やりたいことがある人を支え、応援したいという櫻井さんの挑戦は、これからも続いていきます。

 

 


(取材 佐藤文香)
※撮影時はマスクを外していただきました。